『 色は匂へど (GW編) 』
桜が青葉を繁らせると遅咲きの八重桜やツツジ、サツキが途を飾る。
駅までの八分間の下り坂。
レンガ貼りの塀からアイビーを溢れさせる家、松葉菊を植えた生垣。
区議選の投票所だった小学校では藤棚の蕾に気づき、
以後二週間も道すがら、横目に通り過ぎるのが楽しみになる。
緑の葉に薄紫の花びらが連なり、わずかに色が浮き立つ。
風にそよぎ揺れる。
ここの小学校は桜の木ももちろん立派だ。
正門すぐ脇のそれは太い幹から、門の上にまで枝分かれし、
桜のアーチをくぐって新入学、新学年を迎えることになる。
実はこの小学校の桜の見所は高台から見下ろす校舎裏側の山桜群だと思う。(群はオーバーかな)
それほど陽が当たらない為、淡い桜色が少し濃く見える。
30メートルはあろうかという木の枝いっぱいに花びらをつける。
桜でできたレースのカーテン越しに校舎の廊下が見えたりする。
高台の道の上から桜の木を幾本も重ねて見る景色も満開の時はなかなかのものだ。
ゴールデンウィーク。この時期玄関を出てすぐのところで甘い香りが鼻を衝く。
香水ほど棘のない、自然な刺激臭。
インターネットで花や葉、木の立ち姿でその名を見つけた。
「吸葛」(スイカズラ)だった。
これはその見た目にも驚いた。小さく細長い花がちょっとした滝のように降りそそいでいる。
その大量の花弁から甘い香りがあふれ出ているから、その匂いたるや並でない。
風向きによっては路地を一つ曲がってもまだ香る。
陽射しが強まり、少し汗ばんだり、五月の連休に爽やかな夏日を迎えると
僕の大好きな匂いが、待ちに待っている季節の風が鼻を通る。
六月の初め、僕の地元では、都内でも屈指の規模の祭礼がとり行われる。
もの心つく頃から、四十を過ぎるこの歳まで、毎年このお祭りを僕は楽しみにしている。
歳はとっても、一年の中の、人生の中の一つのリズムになっている。
(もうじきだぁ)と感じさせてくれるのが、この青臭い匂い。
熟した樹から滲み出る分泌液の、生きた匂いとでも言いましょうか。
幼少期、遊び場だった家の前のお寺の境内にも生い茂っていた。
そのお寺のお使いのおばさん曰く、
「椎の樹」の匂いだという。
僕はこの匂いが好きだ。
町の樹や花が香りを風に乗せて、季節の到来を知らせてくれる。
毎年の事ながら、心躍る自分がいる。
僕の身体も自然の一つなのだろう。
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