『 靴みがき(後編) 』
ブラシとウエス(使い古しの綿シャツとか:元々は「waste(くず)」から由来する。ボロ布やボロのこと:だそうだ(三省堂「広辞林」より)で、埃やドロなんかを落とす。
靴クリーナー(クリーム)でさらに細かい埃をウエスで拭取る。
革の表面が次のクリームと馴染みやすくなるよう、湿気を帯びるのを待つ。
続いて靴の色に合わせた靴クリームを全体にまんべんなく、また、色落ちしてしまったところには、たっぷり「染色する気持ち」で塗りこむ。
他の靴も同じ順で進めるので、ここでしばし時間をおくことになる。
クリームが靴の肌に染込むのを待つように。
最後はまた使っていない「ウエス」で丁寧に「光れ、光れ!」と念じながら、革の表面を磨く。
するとさっきまでしっとりなめし革だったのが、見る見るうちに光を反射し始める。
革靴の質感の中に輝きを持つとそれは『艶(つや)』と呼ばれる。
手入れの行き届いた靴には、この『艶』が、しかも重厚な艶がある。
僕のお気に入り靴に、黒革のポストマンシューズ(郵便配達夫が履く、底が真平らの靴:《RED WING》社製)というのがあった。
この靴は良く履き、よく磨いた。
ある時、磨きたてのこの靴を履いて出かけた。
電車を乗り継いでのことだった。
JR品川駅のホームを歩いていたのだが、アナウンスの言われるまま、線路に落ちないよう足元(あしもと)に気を使ったその時、僕は目を奪われた。
快晴のその日の青い空が、自分のお気に入りの黒い革靴に映っていたのだ。
僕は驚いたが、その日一日、青い空を履いて、東京の街を歩いた。
もちろんすこぶる爽快な気分だった。
(了)


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